打上花火

・いちゆきさん

煌めく星屑が物言わず瞬き、地上の賑わいとは別世界の静かな夜空を思わせる、
そんな優しいピアノの調べから導かれるように
恋する少女の切ない時間が映し出されていきます。

密かに想いを寄せている人と、一緒に見上げる打上花火。
しかし、少女の心は別のところを彷徨っています。
これから、伝える想いを胸にいたずらに時だけが過ぎてゆく。
止まらない時間、切り出す勇気が湧いては消えるもどかしさ。
そんな中でも花火たちは静かな夜空を賑わし、
一瞬の煌きを最後に夜の闇へと消えてゆく。ひとつ、またひとつと…。
心の底から綺麗と思えた花火を見られたのは、最後に上がった打上花火。
儚く散った少女の想いは、最後に見ることの出来た花火と共に
真夏の夜空に消えていったのです。

意中の人に、寄せる想いを伝える時は、
いつもと違う独特の雰囲気の中に気持ちが支配されてしまいます。
打上花火が行われる雑踏の中でも、周囲の雑音が何ひとつ耳には届かず、
また、じっと見上げているはずの花火までもが、
その瞳には映っていないようにも思えます。
それほどまでに、想いを伝える事に少女の世界は閉ざされていたのでしょう。
この曲の、周囲の雑踏から切り離された静かなメロディーは
そんな少女の心の中を映し出しているようにも思えますね。
また、間奏ではこの静かなメロディーに乗せるように
控えめな花火の音を聞く事が出来ます。
歌詞には表されていない、想いを伝えるシーンは
この花火の音を背に見られた気がしますね。
そして、全てが終わったとき、開放された思いの中、
見上げた花火は初めて少女の瞳にその美しさを映し出したのでしょう。

この曲は、儚く散った恋をテーマにされていますが、
それに伴われる悲しみ等を見せるどころか、
あいchanの慰めるような歌唱表現と、
打上花火に見立てた少女の想いからは、
どこか清々しい心地よさを残してくれているようにも思えます。

(2006.04.22掲載)